ペラペラに見せる

英語脳のつくり方 その1|海外生活の実体験で会得した事

英語脳って何?

これから英語を始めようとする方へ私の体験談を聞いて頂く際に最も人気があるのが「私は40歳まで英語が殆ど話せませんでした」という情報です。

元々、海外や英会話に全く興味がなく、大学の卒業旅行で同級生達がアルバイトで貯めたお金をはたいてヨーロッパやオーストラリアに2か月ほどバックパッカーとして出かけるのを見ても全く羨ましいと思わず、日本の中だけで大変満足していました。

その後社会人になって英会話教室に通っている同僚がいましたが「高尚な趣味を持っているなあ」と思いながら別世界の出来事として傍観していました。

海外生活や英語に全く興味が無かった男が何が悲しくて38歳でフィリピンへやって来て40歳から英会話をゼロからスタートしたのか。

それを話すと大変長くなるのでまたの機会に譲りたいと思います。

今ではビサヤ語、タガログ語、英語、日本語を使い分けながら生活していますが、謎の言語であるビサヤ語を「見よう見まね」で覚えた経験が40歳から始めた英会話の上達に非常に役に立ちました。

それぞれの言葉を話す時に頭の中で瞬間作文して発話するという作業は一切無く、また日本語がよぎることもありませんので、世間で言う英語脳に近い状態なのかもしれません。

しかし、英語脳の特徴はよく「英語で英語を考える」と言われていますが、それが一体どういうことなのか漠然とした感じがどうしても否めません。

今回は私が11年間で体験し、そして気付いた英語脳の本質つまり正体について考察してみたいと思います。

いきなりジャングル

2007年、私がセブに住み始めた場所はセブといってもセブ市とタリサイ市の間にある山間の集落で周りは山賊でも出てきそうなジャングルでした。

当時はまだ日本人にとってフィリピン留学という世界は一般的に知られておらず、私自身、フィリピンが英語を公用語としている国だということも知りませんでした。

しかし、フィリピンでの日常会話はその土地それぞれの現地語が話されております。

細かく分けると110の言語があると言われますが、基本的に8つの地域と言葉に分かれます。

  • マニラ:タガログ語
  • ルソン島北部:イロカノ語
  • ルソン島南部のビコール語
  • ルソン島中部のカパンパガン語
  • ルソン島中西部:パンガシナ語
  • レイテ島西部のワライ語
  • フィリピン中部地区:ビサヤ語(セブアノ語)
  • バコロド島西部:イロンゴ語

私はぜひ現地に溶け込みたいと思いましたのでまずはセブの人が話しているビサヤ語(セブアノ語)を話せるようになりたいと思いました。

38歳からの2年間は山の中でサリサリストアを営みつつ、精力的にビサヤ語を習得しながらどんどん現地化して行きました。

その頃の写真はヤシの木に登っているものしかありません。

その日からすぐに使える視覚情報

フィリピンは英語のほかにマニラを中心に話されているフィリピン語(タガログ語)が公用語として指定されています。

「フィリピン語、フィピノ語、タガログ語」関連の書籍は日本の大型書店に行けば会話集や辞書が少し並んでおり購入することが出来ますが、ビサヤ語という謎の言語関連書籍は桐原書店でも出版されておらず、勉強する手段はほぼ無い状態です。

そんな言葉をいきなり何の前準備もなく覚えるのはあまりにもハードルが高いので最も分かりやすい視覚的な物真似から始めることにしました。

視覚的な物真似とは表情、歩き方、ジェスチャー、スキンシップ、服装といった見た目で分かる分野です。

例えばフィリピン人男性の歩き方は胸を張って少し後ろにのけぞった感じで外股で歩きます。

フィリピンの人はビサヤ語を含め現地語を話す時には20%程「眉の動き」のみで会話をします。

例えば、YESを表す時は無言で眉を素早く一度上下させ、道端で知り合いに会った時は眉を一度ゆっくり大きく一度上下させます。

怪しむ時は片側の眉を3秒ほど上げたまま固定します。

スキンシップは親愛のしるしとして男女問わず肩に手を回したり置いたりして歩きます。

服装に関しては男性は特にゼッケンの付いたタンクトップにスリッパをを履いています。

これらの特徴をそのまま真似しながら生活しました。

まず食べ物を手に入れるスキル

セブという勝手の分からない所でも一丁前に喉も渇けばお腹も減ります。

現地語や英語が話せるようになるまで待てません。

山の生物を捕まえて焼いて食べるという手段はできれば最後の最後まで取っておきたかったので、ふもと町にある市場でちょっとした買い物ができる言語スキルを身につけることにしました。

そこで、最低限必要ものを買う「これ下さい」という超基本的表現をまず覚えることにしました。

私が住んでいた場所から50分程下ったふもと町に小さな市場があり、食材や雑貨が売られていました。

特に知り合いもいない場所で出来る事といえばこれです。

実物を観察すること!

買い物している人の言動を至近距離から観察しました。

「パパリタコアニ」

市場で客が買いたいものを指さしてそう言っているように聞こえました。

きっと「これ下さい」の事だと思い、ドキドキしながらもフライドチキンを道端で売っているところへ行き、その謎の呪文を唱えてみました。

しかも最大級の笑顔で。

笑顔は国境を越えた最大の武器です。

多少発音が変でも許してくれる気がします。

そのあと何か聞かれましたが、きっと幾つ欲しいのか聞かれているのだと思い、人差し指を一本掲げて見せました。

すると店の人はフライドチキンをビニール袋にひとつ放り込んでくれました。

その時の達成感は今で覚えています。

こういう自ら興した成功体験はどんどん次に続いて行きます。

現地の人を丸ごとじっくり観察し、ありのままを真似るやり方が「俺流メソッド」となり、自分の生活にとって必要な表現をどんどん蓄積していきました。

しかし、聞こえたまま音の単純に音の塊としてリピートしながら使いまくるやり方なので、当時は文法がどうなっているのか皆目見当がつきませんでした。

まるで謎の呪文アブラカタブラ状態です。

誰にどう習って良いのかもわからなかったので最初から勉強するのは諦めていたと言ったほうが適当かもしれません。

そうやって「謎の呪文シリーズ」がある程度蓄積された頃、ふと気が付けばいつの間にか応用が利くようになっていました。

つまり文法的なものが体感的にセンス化していたのです。

一気に物真似するセンテンスの吸収スピードが加速します。

今までの流れを少しまとめてみます。

1 サンプルをじっくり観察
2 表情を含めそのまま動画的に再生
3 トライ&エラー(通じないことも多々あり)
4 成功したセンテンスを喜んで使いまくる
5 文法的なものが自然に理解される
6 応用が利くようになる

上記の1~6を繰り返し実行し続けることにより一体私の脳の働きがどうなったかと言えば、いつの間にか世間で言われる「英語脳」の世界に近づいていました。

英語脳の本質つまり正体とは?

あくまで結果論ですが、私の場合「単語や文法を勉強して最後にパターンフレーズを繰り返し慣れる」という王道パターンではなく、「文法を知らず、聞こえたままに物真似をしながらフレーズを繰り返し話しているうちに文法的なものが自然と頭の中で整理されていた」という流れでした。

この過程の最終段階ではいわゆる英語脳の状態です。

「あとでアヤラモールに行ってきます」というのをビサヤ語で表現する時の私の頭の中はこんな感じです。

/Muadto/ ko/ sa Ayala/ unya/

一番先に来ているのは動詞で、次に主語、目的語と続きます。

つまりビサヤ語にとって動詞が何よりも優先度が高く、動詞が命!といった思考をしています。

このように「文法の気持ち」が腹の底まで落ちるとネイティブ化していくのだと思います。

文法の骨組みともいえる基本構文ですが、日本語はSOV、英語はSVO、ビサヤ語はVSOという語順となります。

これは単なる語順のルールというものではなく、思考の優先順位を表しており、その国の人の頭の中の様子だと言っても過言ではありません。

下記の区切り方は一般的にスラッシュリーディングと呼ばれているやり方に通じるものがあります。

【例1】

日本人の頭の中:私は/セブに/行く/

アメリカ人の頭の中:私は/行く/セブに

フィリピン人の頭の中:行く/私は/セブに

【例2】

日本人の頭の中:私は/チョンバブイを/食べる/

アメリカ人の頭の中:私は/食べる/レチョンバブイを/

フィリピン人の頭の中:食べる/私は/レチョンバブイを/

文法とはつまり物を考える優先順位であり、その国の文化そのものを象徴しているとも言えます。

外国語習得は勉強するのではなく、その国の人の物真似の一部であり、なりきることにより思考パターンさえも染み込んでいきます。

それが英語脳と呼ばれるものの本質であり正体であると思いながら生活しています。

英語をビジュアル的に真似る

実は、ビサヤ語を使いながら山奥で生活していた2年間で英語が話せなくて困る場面が何度かありました。

「やっぱり英語やらなきゃいけないかな。」

2009年、これまた色々とあり、遂に山を降りる日がやってきました。

それを機に英会話をぜひマスターしようと思いました。

ビサヤ語を覚えたやり方を英語に応用させる時がやって来たのです。

セブのダウンタウンにあった語学学校に居候をしていた頃に出会ったのが彼です。

カナダのケベック出身の彼の英語はネイティブ。

ロービギナーの私にはペラペラ過ぎて一体何を言っているのかさっぱり分かりませんでしたが、幸いなことに彼はビサヤ語が少し話せました。

日本人とカナダ人がビサヤ語で話すという奇妙な関係性が出来上がりました。

お互い気が合ったのか、ほぼ毎晩一緒に遊び歩きました。

私は彼が英語を話している時の表情やジェスチャー、行動様式などコピー出来そうなビジュアル情報はすべて物真似の材料にしました。

今振り返ると「観察力こそ言語習得における絶対要件」だと思います

観察力なくしてオリジナルの真似はできません。

彼の要素を少し取り入れながら英語を話すと、簡単なフレーズでもなんだかペラペラになったような気になれました。

今すぐペラペラになるのは無理でもペラペラなフリをすることの大切さを悟りました。

最後に

私たち日本人が自由自在に作りだしていると思っている日本語のセンテンス自体、実は昔々、親や兄弟、学校の先生、友人達が話している場面を動画的に記憶し、無意識にそれを真似しながら使い続けているような気がします。

私は現地の人と仲良くなりたかったので、物真似こそがMy Pleasureでした。

文法の理解は後回しで、とにかく見たまま聞いたままをまるごと真似しながら再生するというやり方の末、思考さえも同化し、それが英語脳の出来上がりという流れでした。

ちなみに私の英語はすべて誰かのコピーなので、物真似スイッチがONにならないと上手く話せません。

ビサヤ語、英語、日本語はすべて違う表情と別々のキャラクターを持っています。

今日は英語がスムーズに出ないなという日は自分でオリジナルを創り出そうとしている時だったりします。

2年間の山暮らしは色々と不便もありましたが、言語習得のための大切な気付きがあり、また自分にとって必要なものを自らの意思で選択し実行できたことは人生のゴールドでした。

フィリピンに流れ着いて良かったと思います。

私の体験談が少しでも参考になれば幸いです。

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